HDS-R(長谷川認知症スケール)は医療機関で簡易的に行われている認知症検査です。
HDS-Rは30点満点のテストで、20点以下では認知症の疑いがあると言われています。この診断結果はあくまで参考までで、この検査だけでは即認知症と診断が出るわけではありません。しかし、この検査結果を踏まえて、より詳細な認知機能検査が行われる場合があります。
問診の項目ごとに解釈が異なります。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士など働き始めた新人リハビリスタッフや学生などは結果の解釈から日常生活にどんな問題が生じるのか考えにくい方もいるかもしれません。
実際には、より詳細な他の検査結果や日常生活で困っていることを情報収集しながら合わせて考える必要があります。それでも、その情報を収集するのも時間を要します。
今回は各項目の解釈をおさらいしながら、HDS-Rの結果から日常生活での問題点の一例を考えていきたいと思います。
HDS-R(長谷川認知症スケール)
HDS-Rの質問項目は以下の9問で、見当識や記憶に関することを聞きます。
30点満点中20点以下の場合は認知症の疑いと判断されます。
1.お年はいくつですか?(2年までの誤差は正解) | 歳 | 0 1 |
2.今日は何年何月何日ですか?何曜日ですか? (年月日、曜日が正解でそれぞれ1点ずつ) | 年 月 日 曜日 | 0 1 0 1 0 1 0 1 |
3.私たちが今いるところはどこですか? (自発的に出れば2点、5秒おいて 「家ですか?病院ですか?施設ですか?」 の中から正しい選択をすれば1点) | 自発的 ヒント | 0 1 2 |
4.これから言う3つの言葉を言ってみてください。 後でまた聞くのでよく覚えておいてください。 (以下の系列いずれか1つ、採用した系列に〇印をつけておく) 1:a)桜 b)猫 c)電車 2:a)梅 b)犬 c)自動車 | a b | 0 1 0 1 0 1 |
5.100から7を順番に引いてください。 (100-7は?それからまた7引くと?を質問する 最初の答えが不正解の場合は打ち切る) | (93) (86) | 0 1 0 1 |
6.私がこれから言う数字を逆から言ってください。 (6-8-2、3-5-2-9を逆に言ってもらう、 3桁逆唱に失敗したら打ち切る。) | 2-8-6 9-2-5-3 | 0 1 0 1 |
7.先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください。 (自発的に回答があれば各2点、もし回答がない場合は、以下の ヒントを与えて正解であれば1点。) | 自発的 ヒント | a:0 1 2 b:0 1 2 c:0 1 2 |
8.これから5つの物品を見せます。それを隠しますので何が あったか言ってください。 (時計、鍵、たばこ、ペン、硬貨など必ず相互に無関係な物) | 物品の名前 | 0 1 2 3 4 5 |
9.知っている野菜の名前を出来るだけたくさん言ってください。 (答えた野菜の名前を右欄に記入する。途中で詰まり約10秒 間待っても出ない場合は打ち切る) 0~5個=0点、6個=1点、7個=2点、 8個=3点、9個=4点、10個=5点 | 野菜の名前 | 0 1 2 3 4 5 |
合計得点 | カットオフ20点 | /30 |
HDS-Rの結果の解釈とテスト中の様子も大事。
どの検査の結果でも同じことを言えるが、検査は結果だけではなく、検査中の様子をメモしておくと、他のテストの結果を行う上で貴重な記録となる場合があります。
HDS-Rの結果の解釈と観察から得られる情報に分けて答えていきます。
HDS-Rの質問内容の結果解釈
1:年齢
2:日時の見当識
3:場所の見当識
4:言葉の即時記憶
5:計算
6:数字の逆唱
7:言葉の遅延再生
8:視覚記憶
9:語早期・言葉の流暢性
質問4-7のテストでは作業記憶(ワーキングメモリ)を評価することが出来ます。
質問9では保続の症状がみられる可能性があります。
観察から評価と解釈
HDS-Rはテストの結果以外からも、観察から以下のようなことを評価することも出来ます。
1.意識と注意機能
意識レベルや注意力を評価できます。テストは基本的には静かな環境にて評価することが多いです。ですが、リハビリ室など職場によっては注意が逸れやすい環境かもしれません。無関係なことに注意が向かないか観察することが出来ます。
2.テスト中の態度
検査に適した態度をとれているか。アルツハイマー型認知症では保たれやすいが、前頭側頭型認知症ではそぐわない場合が多くなる。
3.発動性・自発性
ボーっとしていると意識や注意の評価対象ともなるが、「考え不精」もあるか観察しておくとよい。
4.依存性
自分で考える前に、質問の答えを家族や検査者に求めるような仕草をする場合にはアルツハイマー型認知症を疑う。
5.精神運動スピード
思考や動作緩慢であるかを観察する。皮質下性認知症の特徴であり、脳血管性認知症やパーキンソン病の疑いもみられる。
結果から考える日常生活での問題点
テスト結果から考えられる日常生活での問題点です。あくまで推察になりますが、家族の方から日常生活の様子を聞く場合にも役立つと思います。
見当識障害の日常生活で生じる問題
見当識障害が生じると、日常生活でどのような問題が生じるのでしょうか?
新人や学生が先輩に聞かれる場合もあるので、一例をご紹介します。
時間や季節が分からなくなる。
・予定を忘れやすい(外出)
・服薬管理
・季節に合った服装を選べない
場所が分からなくなる
・迷子になりやすい
・スーパーや病院などいつも通っている道が分からなくなる
見当識障害への対策
見当識が障害された方への対策方法の一例です。
カレンダーや時計、スケジュール帳を使用する。
症状の代替手段をして使う方法です。
・日付の確認として毎日カレンダーに印をつけ、予定を確認する習慣をつける。
・時計は見えるところに置く。
・服薬の場合は内服カレンダーを使用し、日付や時間ごとに分けておく。
即時記憶障害の日常生活で生じる問題
即時記憶とは、記憶を保つ時間が数十秒から1分程度と短い時間のみ残る記憶のことです。
・自分で置いた物の場所が分からなくなる
・財布を盗まれたと勘違いする
・食事したことを忘れる
・少し前に見たり聞いたことを覚えられず、何度も同じ説明が必要
・日にちや曜日の感覚が分からなくなってしまう。
即時記憶障害への対策
・日常的に使う物は決まったところに置く習慣をつける
・メモを取る、確認する習慣をつけていく
作業記憶(ワーキングメモリ)の障害で生じる問題
作業記憶(ワーキングメモリ)とは一つの情報を保持しながら、別の作業を同時に処理していく能力のことを言います。作業記憶が障害されると日常生活での不便さを多く感じることになります。
・仕事中に新しく人から頼まれた仕事を覚えておくことが出来ない
・料理中に電話をすると、料理をしていたことを忘れ、火の管理に危険が生じる。
作業記憶(ワーキングメモリ)障害への対策
・課題や質問は一つずつ提示する。
・スケジュールや実施手順を用意して、一つずつ解決出来るように援助する。
計算力障害の日常生活で生じる問題
計算力とは数字を理解して計算する力のことをいいます。計算力を司どっているのは脳の「前頭葉」と言われる部位です。前頭葉は計算力の自分の状況や物事の状態を把握する「判断力」や物事を順序立てて効率的に行う力である「遂行力」を司どっています。日常生活でみられる問題は以下のようなものがあります。
・金銭管理が出来なくなる。(家計管理)
・レジでの支払いに支障をきたす
例えば、130円の支払いを「100円×1+10円×3」ということが分からなくなり、大きいお札ばかりでの支払いが増えるなど
計算力障害への対策
・簡単な計算(足し算、引き算、掛け算、割り算)を繰り返し行う
・連続足し算、引き算を繰り返す(1+2+3+4+5=)など
まとめ:簡易検査でもチェック出来ることは多くある。
HDS-Rはあくまで簡易検査として、行われている認知症検査です。
検査結果や日常生活で不安に感じている行動などによっては、より詳細な検査が必要になると思います。
詳細な検査項目の優先順位をつけるうえで、簡易検査の結果の解釈は必要なこともあります。
また、その結果から本人やご家族の日常生活での不安を少なくしていけるのかが求められていると思います。
新人や若手セラピストが検査結果だけにとらわれず、日常生活でどんな問題が浮かぶか考えるきっかけになればと思います。良い援助が出来るように頑張りましょう。
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